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ブルーノ・ラトゥール『つながりの社会学―アクターネットワーク理論入門』(全訳)

『アクターネットワーク理論入門』表紙

翻訳中、法政大学出版局より刊行予定。伊藤嘉高訳。全訳。Bruno Latour, 2005, Reassembling the Social: An Introduction to Actor-Network-Theory, Oxford University Press.

「本書を書くことで、ようやく、自分が社会学者と呼ばれることを誇りに思える条件を明らかにすることができた」――サイエンス・ウォーズによって、堅固な科学的事実に対する社会的説明(社会的なものを持ち出す説明)の説得力のなさが白日のもとにさらされた。しかし、そのことが意味するのは、「科学社会学はことごとく失敗せざるをえない(したがって、科学者の社会学などに自己限定しなければならない)」ことではなく、「社会理論そのものを作り直す必要がある」ことであった。

「話が細かくなるやいなや、社会学は例外なく反知性主義の立場へと後退するならば、なぜ、社会学は科学を名乗るのか」――こうして、ラトゥールらは、新たな社会科学の理論をまとめ上げる。それがアクターネットワーク理論である。しかし、アクターネットワーク理論もまた、大きな誤解にさらされてきた。一方で、素朴実在論への後退とのそしりを受け、他方で、相対主義の権化のように扱われ、権力や支配の問題(あるいは人間の意志)を無視していると非難された。

「読者は、科学の営為などさまざまなトピックに対する私たちの見解にとまどっているというよりは、むしろ、『社会的』と『社会的説明』という語に私たちが与えている独特な意味にとまどっていることに気づくようになった」――そうした読者の批判ととまどいに応えるべく、本書は執筆された。本書は、「社会的なものの社会学」(sociology of the social)に代わる、「つながりの社会学」(sociology of association)のマニフェストである。つながりの社会学を、タルドやホワイトヘッドらの知的潮流に位置づけるとともに、他の科学論やエスノメソドロジー、物語論などの成果を取り入れ、その勘所を具体的な例を挙げながら分かりやすく説く。そして、最後には、社会科学と政治の新たな関係を描きだす。

本書が、LSEの経営学部での講義、オックスフォード大学のビジネス・スクールでの講義などをベースにしていることからも分かるように、今日、アクターネットワーク理論は、社会学や人類学にとどまることなく、経営学、組織論、会計学、環境学など社会科学全般に広がっている。

「この新たな社会理論がきちんとしたかたちで示された今、読者はこの理論をどう扱うのかを決めることができる。しっかりと活用しようとするのか、原形をとどめないほどねじ曲げてしまうのか、あるいは、最もありそうなことだが、すべて捨て去ってしまうのか―しかし、今度はその内容を知りながら!」――本訳書では、幅広くの方に読んで頂けるよう、可能な限り平易な訳文を心がけ、「誤読することもなくスラスラ読めること(少なくとも翻訳の稚拙さでつまずかないこと)」を目指している(これは「遅読」の条件でもあるはずだ)。さらには、全文を仏訳版と照らし合わせて推敲を行い、訳文のいっそうの明瞭化を図るとともに、これまで必ずしも十分に理解されているとは言えなかった術語(たとえば、ラトゥールの用法におけるアクタンの意味)についても詳細な訳注を加えている。

お知らせ~翻訳稿の検討

[2017.07.01]松本三和夫先生に勧められて科学社会学会に参加しました。ANT部会では、まず、院生の方から2件の報告がありました。個人的に話をすれば興味深い議論がいくつも出てくるからこそ、今回の報告は「もったいない」面がありました。「なぜ今、ANTなのか」ということを端的に伝えつつ、自分の論点を展開することの難しさを痛感させられました。

続く、栗原亘先生による第三報告は、本書でも議論されているANTの政治的な意義(political relevance)を深く理解させてくれるものでした。さらには、Politiques de la nature以降の議論を踏まえ、「STSの政治的関与は、ラトゥールの考えるANTによるコスモポリティクスから考えると非常に限定されたものである」という論旨に対して、フロアから、「いやそんなことはない。STSもさまざまなかたちで、当たり前とされる事実を争点化してきた」という応答がありました。それに対して、栗原さんは「その点について論争があることは承知している」と回答されましたが、時間の都合から、突っ込んだ議論はなされませんでした。

本書の議論を踏まえれば、問われるべき論点は、本書の用語を使えば、第四の不確定性を「争点化してきたかどうか」――つまりは、「厳然たる事実」(matter of fact = faits indisputables)を「議論を呼ぶ事実」(matter of concern = faits disputés)に変えてきたかどうか――はもちろんのこと、STSが他の四つの不確定性をどのように扱っているのかが論点になりそうだと感じました。

ちなみに、松本先生からは、「イギリスでは、原子力政策の担当者もラトゥールは読んでいるんだけどね」といった状況も教えて頂きました。

[2017.06.23]7月1日に開催される科学社会学会第6回年次大会(於・東京大学)で、「アクターネットワーク理論の検討」のセッションが設けられています。本書も取り上げられるとのことなので、私も聞きに行きます。

[2017.05.21]訳稿に対してコメントいただける方を求めています。「アクターネットワーク理論と社会学研究会」で訳稿を流し始めていますが、同じものをお送りしていきたいと思います。ひっかかるところに線を引いていただくだけでも構いません。御礼として、(ご承諾頂ければ)訳者後書きでお名前を出させて頂き、刊行後に献本致します。メール、SNS等でご連絡いただけますと幸いです。

[2017.05.20]「アクターネットワーク理論と社会学研究会」に参加。池田祥英先生の報告では、タルドの心間心理学と社会学の異同について(ラトゥールは、タルドの心間心理学ではなく、その社会学を引き継いだと言うべきではないのか)、そして、タルドの社会理論と形而上学の関係(ラトゥールは両者は切り離せないとしているが、タルド自身は別のものと考えていた!?)、などなどANT理解を深める論点が数々出ました。村井重樹先生の報告では、ラトゥールのいうところの「批判社会学」=ブルデュー社会学と位置づけ、両者の非難の構図が浮き彫りにされました。その後のディスカッションでは、ラトゥールも指摘していることですが、両者は見ているものが違う、共存可能であると整理されたように思います。

[2017.05.16]訳稿を、「アクターネットワーク理論と社会学研究会」(詳しくは、立石裕二先生のウェブサイト)で検討する機会を設けていただく予定です。同研究会のメーリングリストで訳稿を上げ始めました。ご関心のある方は、どなたでも、メーリングリストに参加できるとのことです。

邦訳引用文献一覧

目次

序章 つながりをたどる務めに立ち帰る

第1部 社会的世界をめぐる論争を展開させる

対話形式の幕間劇―アリ/ANTであることの難しさについて

第2部 つながりをたどり直せるようにする

結章 社会から集合体へ―社会的なものは再び組み立てられるのか?